トップイベント》発酵の素をたずねる2005

 
 
 
発酵の素をたずねる
2005月2月20(日)  
千葉・寺田本家   
text:水谷 昌子
待ち合わせ
 2005年2月20日千葉県香取郡神崎町にある、造り酒屋寺田本家にお邪魔した。待ち合わせ場所は新宿から電車で約二時間のところにある、JR成田線下総神崎駅。のどかな単線電車からぞくぞくと降りてきたのはざっと30人ぐらい。直に寺田本家に行った人もいたから、全部でゆうに40人を超えたのではないだろうか?参加者は10人ぐらいだろうと予想していた私はちょっとびっくりした。

寺田本家の年季の入ったレンガの門をくぐると、そこはまるで江戸の城下町のような活気。久しぶりの友達と会って喜ぶ人、周りじゅう知らない人だらけで緊張している人、私たちを迎えるために大忙しの寺田本家の皆様。古くてかっこいい蔵や瓦屋根の建物に囲まれて、大にぎわいの寺田本家ツアーが始まった。


酒蔵見学
 トージバ代表の渡邉さんのあいさつの後、さっそく酒蔵見学が始まった。はじめに案内してもらったのは室と呼ばれる麹造りの部屋。ここは蒸米に麹菌をくっつけて麹米を作るところだ。入ると中はとても暖かい。天井も床も壁も全部白木でできている。始めて見る光景にわーっと嬉しくなる。ただ、私たちは30人もいるけれど、まだみんなお互いのことをよく知らない。だから「わー、あったかい」という言葉もみんな心の中でつぶやく。寺田本家当主の寺田啓佐さんが麹の説明をしてくれている間も、驚くことがあってもみんなちょっと目を見開くくらい。まだまだ硬いスタートでありました。
 
ところで、普通の酒蔵では(普通=その他大勢と考えます)この室には一般人はこうも簡単には入れないそうだ。朝ごはんに納豆を食べてきてはいけないなどの制約もある。麹をだめにする菌が入って繁殖したら困るからだ。ところがここ寺田本家では、まったくそんな心配をしているようすはない。なんたって30人もいっぺんに室にいれてしまうのだから。「どうしてここは(制約をつけなくても)大丈夫なんですか」他の酒蔵にもいったことのある仁さんが質問した。(仁さんは元広告業界の人。人にきっかけを与える仕事がしたいと今は職探し中)このとき、それまで麹の説明をしていた寺田さんの目がきらりと光った、ような気がした。

  寺田さんいわく、菌は気持ちいい環境だと発酵を始め、逆に環境が悪いと腐敗が始まる。そして、発酵している間は腐敗が起こらないという法則があるのだそうだ。つまり、この室は細菌にとってとても気持ちいい環境になっているため、どんな菌がきても腐敗は起こらないということになる。むしろ、いろんな菌がいたほうが麹の発酵の助けになるんだそうだ。ノロちゃん(ノロウィルスのこと!)だって発酵の助けになるとのこと。菌を悪いもの(ウィルス)と考えないで、ありのまんま自然そのままを受け入れようとする寺田さんの信念がここで見えた気がした。

  そんな考え方だからこそ、手づかみの味見もさせてくれるのだ。麹が入っている大きな台の白い布をぴらりとめくり、「どうぞ食べてください」。麹を手で触ってもいいの?!という驚きが、みんなの心に沸き起こったものの、みんなおずおずと手を麹につっこんだ。お米が甘い。だって「雑菌」が繁殖するんじゃないかと心配になるもの。でも、寺田さんがいいというならいいのでしょう。手づかみで食べた麹は、すごく新鮮で、甘いやさしい味だった。

 次の部屋は酒母づくりの部屋。さっきの麹に蒸米と水を加え、酵母をつくる。この酵母と麹と蒸米を混ぜるとやっと日本酒のもとができるという仕組みになっているんだそうな。ふつうの酒蔵はこの酒母をつくるとき、人工的な乳酸を加えるけれど、ここ寺田本家はもともと蔵に住んでいる乳酸菌などの力を借りる。人工的なものを加えないから、より力強い本物の日本酒ができあがるんですね。

  さて、ここでも味見をさせてくれた。おちょこで回ってきた甘酒のような液体にみんな人差し指をぶすりとさしていく。だんだん寺田本家の流儀にみんなもなれてきて、手で直接さわることに抵抗がなくなってきた。いやむしろ、手で直接触る楽しさに気づき始めたというべきか。
 
 次の部屋がもろみ発酵の部屋。木造の体育館のようなところに高さ3mは軽く超えそうな巨大タンクが何列にも並んでいる。最初の麹米とさっきの酒母、そして蒸米をまぜて発酵させるのだ。

  巨大タンクの中をのぞくため、みんなでぞろぞろはしごを上る。タンクの中はなんとも不思議な光景だ。みんながのぞきこんでいる間も、絶えず泡がぷくぷく湧いてくる。表面はもこもこの羊の毛のような泡の塊がでこぼこ模様を作っている。「生きてるんですよー」。まるで産まれたばかりの赤ん坊でも見るような顔で、寺田さんはその泡たちを見ていた。

  さてさて、ここでも味見。もうみんな待ってましたとばかりに、次々と泡をちょいとすくって口に入れる。甘―い。ここまでくるともうほとんど日本酒の味。みんなの顔もすっかり溶けきっていた。ちなみにここまでくると、私たち人間のほうもときほぐれてきた。隣の人とも自由に言葉を交わす。私たちも発酵し始めたのかもしれない。あー、居心地がいい。
 

お昼ごはん
さあ、ばっちり寺田本家に魅了されたところで、お待ちかね「チャンプルーの素」が作ってくれたお昼ごはんの時間です。酒蔵から出ると中庭においしそうな料理の数々が並んでいた。しかも、さすがは食べ物好きの皆様。もうすでになくなってしまいそうなおかずまである。急がなければ!
「チャンプルーの素」とはお料理ユニットの名前。寺田本家の次女さっちゃんとその幼馴染のとっとちゃん、さっちゃんの旦那さんのまさるくんで構成されている。

<お昼のメニュー>
玄米酒かす酵母ピザ
上にかかっているのは当然チーズ、、、と思いきや、もちあわ+酒かす+豆乳のソースでした。味もチーズにそっくり。
雑穀ソーセージ
ソーセージはお肉でできているものという常識を覆す料理。見た目も歯ざわりもソーセージなのに肉はゼロ!
玄米酒かすカリカリ素揚げサラダ
みずみずしい有機野菜にカリカリのチップ。
とっとちゃん手打ちの二八そば
とっとちゃんがその場で打ってくれました。水は寺田本家の井戸水、粉は長野のあずみ野。醤油は出雲。たれの仕上げには寺田本家の「たらちね」をたしているとのこと。濃くて甘い江戸前つゆができあがるわけです。そばのさきっちょだけちらりとつゆに漬けて、あとはずずずとすするべし。イベントではトージバ幹部の神澤さんの次男しんらくん(五歳)がウェイターを担当。
泡汁
さっきの酒蔵の巨大タンクにいた泡。これを根菜の味噌汁にいれる。ほんのり甘くてやさしいお味。   
玄米、雑穀おにぎりと自家製みそ、十年みそ、自家製うめぼし
これは体にしみこんだ。玄米ってこんなにおいしいんだっけという気になりました。自家製みそ、十年みそとまた合うこと。有機で造ったものはつるりとのどをとおっていく。ほんとすばらしい
香ばしく焼いた酒かすクラッカー
去年の4月のアースデイでも食べた記憶があるこのクラッカー。カリカリでやさしい味です。
白菜塩づけ
寺田本家のおばあちゃんのお漬物だとか。かなりシンプル。だからこそまた食べたくなる
 おいしい食事にみんなの会話もよく弾む。そして、忘れてならないのは寺田本家のお酒!三種類だしていただきました。おちょこ一杯100円。おいしかったー。

<お酒>
◎むすび
めずらしい発芽玄米のお酒。微発泡で香りがつよい。韓国のお酒まっこりにちょっと似ていると思う。私にとっては、これこれこれこれ!っていうぐらい好きなお味です。でも、ひとによって好き嫌いはあるみたい。
◎五人娘の搾ったまんま
この時期限定の生原酒。にごり酒。「五人娘」は寺田本家のメイン銘柄。にごり酒はちょっと渋かったり後味が悪かったりするイメージがあるけれど、このにごり酒はほんとにやさしい味。まさに搾ったまんま。
◎あわみ
あまずっぱくてフルーティーなワインのようなお酒。ふつうの酒よりもちょっと早い時期に搾ったもの。発酵がもっとも盛んな時期に搾るため、甘みがつよく残っていて、かつすっきりしてるのが特徴。
お酒がほとんど飲めないといっていたわたべさん(大豆オーナーで、ちょっとミステリアスな香りもする方)も「くいくいくい!って飲めちゃう!」と興奮気味


風呂敷芸人いさおさん
 さて、みんなのお腹もだんだん落ち着いてきたころ、不思議な人々が動きだした。まず第一号は風呂敷芸人いさおさん。
 紺色の和服姿なのだが、なぜか下にはトレパンをはき、靴はスニーカー。怪しさ満点で一升瓶の包み方、買い物袋の作り方など、風呂敷でいろんなものを作ってくれた。でも、彼が一番のってきたのは、風呂敷で作る水着を披露したとき。開発には3年もかかったそうだ。美人で活発そうな飛彈さん(埼玉出身。JOCBで94年から4年間ネパールにいた!)をモデルにつかまえ、風呂敷でビキニの胸当てを作っていく。「これをほんとに海でつけてくれたら世界で一番最初に僕の作品を着たひとになりますよ」そんな誘い言葉を言いながら、本当にビキニの胸あてができあがった。見事。形はほぼ完璧だ。服の上から水着をつけて少々間抜けな姿になりながらも「(水着が)リオのカーニバルばりに心もとないね」とクールな声でつっこみをいれていた飛彈さんも素敵だった。
 あと評判がよかったのは買い物袋。簡単に作れるうえに、なかなか形もかわいい。これを知っていれば確かにスーパーのレジ袋はいらないと思った。
 「あーこれいい」
 「かばんに一枚いれとこう」
 「ゆかたのときにいいね」
若い女性陣の黄色い声援を受けて、いさおさんの芸も幕を閉じました。
 ところで、なぜ風呂敷芸を始めたのですか?みんなが残した焼き芋の皮を集めているいさおさんに聞いてみた。「僕ものが捨てられないんですよ。スーパーのレジ袋も、ごみにならないように」と考えたんだそう。確かに人の分の焼き芋の皮まで食べているいさおさん。ものを捨てられない性格がここまで極まると、芸にまでなってしまうんですね。

気功の先生北澤さん
 なにやら人だかりができている。その中央には初老の紳士が「うー、うぇー!」としきりにうめき声を上げている。これはいったい?と思ったら、気功をやっているのだそう。どこかを治してほしいひとが椅子の上に寝そべり、北澤さん(この気功の先生)が寝そべった人の頭の上で手をひらひらやる。「うん、これでチャクラが開きました」。え!今ので開いたの?!と聞き返す暇もなく、今度は背中に手を当てている。そこで先ほどの「うー」がはじまった。本人いわくこれはげっぷだそうだ。患者のわるいものを自分の体内にすいとってしまうから、このげっぷで外にだしているのだそうだ。このげっぷを編み出す前は、患者の悪いものを全部体内に溜め込んでしまったから、大変だったのだそうだ。
 「うえー!!」北澤さんがひときわ大きなげっぷをした。このときの患者さんは吉多やすさん。相当悪い物がたまっているらしい。北澤さんが七転八倒した治療のあと、吉多やすさんに感想を聞いてみた。「いやぁ、なんか体が軽くなった気がします」と、なんとも素直な笑顔をみせてくれた。北澤先生はどうやら本物かもしれない!
 
 さてさて、全部は書ききれなかったけれどこの他にもいろいろなもようしものが行われた。歌や踊り、フリーマーケットもあったし、寺田本家の次女さっちゃんによる酒かす酵母パンの作り方講習会、さっちゃんの旦那さんのまさるさんによるどぶろく講習会も開かれた。どぶろくに興味のある方は、
 『図解文集  世界手づくり酒宝典』 農文協 
                   貝原治 著
もご覧下さい。
 とにかくいろんな人があつまって、わいわいがやがや楽しい一日だった。最後になりましたが、寺田本家の方々、トージバスタッフの方々、楽しい一日をどうもありがとうございました。


トージバ代表の渡邉の挨拶の後、蔵元の代表寺田啓佐氏より蔵の考え、説明を受ける。


麹菌を育てる部屋「室」

麹の味見をさせてくれる酒蔵は、おそらくここの酒蔵以外にないだろう


酒母づくりにもこだわります。


いつもオイシイ雑穀料理などのランチを用意してくれる「ちゃんぷるーの素」の二人。左からさっちゃん&トットちゃん。
(去年の写真と同じですみません)